表面はどの深さまで表面なのか...
表面・界面からの光学応答スペクトル:
反射率差分光(RDS)とは、反射率の2偏光方向間の差を取ることで、対称性の破れた表面や界面の電子状態の光学応答を観測する手段です。
 実験が始まった当時、その結果の解析手法がなかったため、私達は、光学応答の非局所性を正確に取り入れることにより、その理論計算方法を初めて開発しました。また、観測されるスペクトル形状と電子状態の対応関係を明らかにし、スペクトル形状の一般理論をつくりました。この理論により、表面・界面の電子状態のエネルギーやその対称性、時間と共に変化する表面界面の様子が手に取るようにわかるようになりました。
 左図はGaAs表面の電子に対応したスペクトルの計算と実験、右図はSiO2/Si酸化界面のスペクトルの計算と理論です。特に、右図は理論が実験に先駆けて予言したものであり、この結果により、今まで知られていなかったSiの酸化の時間変化が明らかになり、酸化を原子層オーダーで制御することが可能になり、応用分野にも大きなインパクトを与えました。(Appl.Phys. Lett 2000, Jpn.J. Appl. Phys. 1998)
ミクロな原因がマクロな形を作る...
マクロ欠陥や転位の発生・消滅とその電子構造: エピタキシャル結晶成長においては、界面での格子不整合や電荷不整合が起源となり、界面上の1点からピラミッド形をした積層欠陥4面体や線状の貫通転位がしばしば発生します。発生のミクロな起源や、こうしたマクロ欠陥の電子構造の特徴を解明しました。特に、前者は自然発生する量子ドットとなること、後者では転位芯の不対ボンドが電子キャリアの発生源となることを明らかにし、今まで長年未解明であった実験結果に初めて説明を与えました。(J.Cryst.Grpowth 2001, Thin Solid Film 2004, Jpn.J.Appl. Phys. 2009)
極限は極限ではない...新しい常識の創造
新しいSchottky barrierの理論:
 
金属/非金属界面において最も基本的な物理量はショットキーバリア(非金属のバンドギャップ中の金属のフェルミエネルギーの位置)です。従来の理論では、色々な金属のフェルミエネルギーは、図(a)のように非金属のバンドギャップ内にある1つの"電荷中性準位"に向かって整合するとされてきました。
 ところが最近、図(b)のように従来理論と矛盾する結果が、金属/絶縁体界面など数多くの界面で発見されました。その原因は、金属/Si界面では金属の電子はSi中に深く入り込むが(右上図)、HfO2のような絶縁体では入り込まない(右下図)ところにあります。入り込まないために、絶縁体界面では、金属のフェルミエネルギーの位置は界面原子間の結合に非常に敏感になります(左下図)。
 我々は、これら新しいショットキーバリアの異常を説明する新しい理論を構築しました(中央式)。この理論により、従来極限と考えられてきたショットキー極限やバーディン極限は決して極限ではないことが明らかになりました。この理論による次の展開は、有機・生体界面で始まっています。(review: ECS trans, 2006)
対称性の破れが生む新しい物性...
フラットバンドカゴメ格子における異常な励起子と電流: 
ミクロな空間では電子は波として振る舞い、その干渉が奇妙な現象を引き起こします。カゴメ格子の電子状態は、局在性と遍歴性を併せ持ち、無限に縮退しています。そのために、2次元系であるカゴメ格子の励起子の束縛エネルギーは常識に反して1次元、0次元系より大きくなります。また、横電場を加えると縦電流が流れます。これらの性質は、超伝導や磁性のように、対称性の破れが引き起こす新しいタイプの現象です。(Phys.Rev.B, 2004, 2006)
量子力学的な摩擦とは...
表面吸着分子の量子摩擦: 表面に吸着した分子の振動は、基板と分子間を移動する電子によって、"量子"摩擦を受けます。その摩擦係数を経路積分を用いて理論的に求めました。分子内の電子間斥力が小さい場合にはクーロンブロッケードが観測され(図の黒い2つのδ関数ピーク)、斥力が大きくなるとKondo効果が現れます(中央の凹なピーク)。特に後者では摩擦が異常に大きくなることがわかります。このように、ナノリンク系の摩擦にはミクロな電子状態の秩序が顕著に反映されます。量子摩擦と電子状態の関係を論じたのは、我々の研究が世界で始めてです。(J.Phys.2007)
小さな世界の抵抗とは...
ナノコンタクト系の過渡電流: 電子の通り道を狭くした量子ドットや量子ポイントコンタクト、さらに分子を電極で挟んだ分子架橋といった小さな空間では、エネルギーや情報エントロピーがどの様に輸送されるのでしょうか?これは、我々が量子開放系物理に新たに提唱したテーマです。例えば、挟まれたドットや分子の自由度は小さく、挟む電極の自由度は大きいために、情報は一方向に散逸されやすくなり、それが過渡電流の摩擦、つまり電流の緩和現象に現れてきます。また、電極の量子性が電流に新しいタイプの振動を引き起こします。入力矩形パルスがどの様に変形されるか(つまり情報エントロピーがどの様に輸送されるか)、その起源は何かをミクロな立場から明らかにすることで、非平衡開放系の本質に迫ります。(e-J Surf.Science Nanotech, 2008, 2009、GCOEでの研究)

次の量子摩擦の系と合わせて、これらの研究を進めることで、我々は21世紀の新しい界面物理の世界を創造しようとしています!
生物と非生物を繋げると..
生体アミノ酸の電子構造:
 タンパク質は20種類の生体アミノ酸がペプチド結合して1次元に繋がった鎖です。アミノ酸の電子構造を調べることで、アミノ酸はA、Bの2つのグループに分類できることを発見しました。これはタンパク質の電子構造や機能を解明するための重要な知見です。
 また、Si基板上にAグループのアミノ酸を吸着させ電圧をかけると、Siから正の電荷がアミノ酸に入り、アミノ酸はイオン化してタンパク質の変形を引き起こし、タンパク質の触媒機能が発現することがわかりました。将来、SFのように、頭にSi半導体を埋め込むことができるのかも知れません。(Jpn.J.Appl.Phys.2008、GCOEでの研究)


研究活動

English version is avairable.


私達の研究室では、新しい第一原理計算や解析計算を自ら開発し用いることで、物質の成長表面や界面、ナノ構造体、生体有機物等の広範囲の系を対象に、それらの形態(原子の結晶構造など)やダイナミクス、量子力学的な電子構造、系の光学スペクトル・伝導スペクトルなどの普遍的な性質を、理論的に研究しています。特に、誰も踏み込んでいない世界に飛び込んで、新しい物理を創造することを目指しています。

我々の研究室では、学内からだけでなく、他大学からも修士、博士課程の 大学院生を積極的に受け入れています。詳しいことをお知りになりたい場合は、 気軽に中山までメールしてください!!!

代表的なトピックの紹介  (2009.05.25作成)
  当研究室の研究を詳しく説明するかわりに、これまで行ってきたいくつかの研究例を、以下に、画像と共に紹介します。研究の視点や目的、その結果、研究の雰囲気などを概ね把握していただけると幸いです。これらの研究は現在も引き続き進めています。

     

     







界面は時間と共に変化する...
界面の安定性: いったん形成された界面は未来永劫に安定ではありません。時間と共に界面を作る両方の物質の原子が混じり合い、界面はその形態を変化させます。こうして落ち着く最終的な界面形態は、次の3つの分類されます:(1)混晶化の起きない急嵯な界面、(2)乱雑に混晶化の起きる界面、(3)混じり合い界面秩序化合物層が形成される界面。
 (1)の原因は原子半径とイオン性にあること、(2)はボンドの切断とスクリーニングにあること(左図はAuがSi内に侵入する様子、中図はその断熱ポテンシャル)、特に針状に侵入する場合と面上に侵入する場合があること、(3)秩序化合物が形成される起源はアニオンカチオン間の電荷移動にあること、界面層は徐々に組成を変化させること(右図はその相図)等を明らかにしました。(review: ECS trans. 2006)












穴が空くことで安定になる奇妙な物質...
秩序空孔半導体の形態と電子構造:
 価電子数が不整合な原子がつくるIII2VI3半導体は、6つの原子サイトの1つを空孔原子が占有し、周期的に原子の穴が空いた系となります。観測された穴の整列の仕方は、物質に依存して、(1)DNAのような一様直線・螺旋配列型、(2)層状物質のような面上配列型、(3)量子ドットのようなマクロ配列型、の3つに分かれます。これら秩序配列の違いが生じる理由は何か、それぞれの配列の電子構造の特徴は何か、配列と共に光学的性質はどの様に変化するのか(光吸収異方性、ラマンスペクトル異方性)、これら秩序空孔半導体にドーピングは可能なのか、などを第一原理計算を用いて明らかにしました。(JJAP, 1998)



電子はネットワークトポロジーをどう感じるのか...
異結晶界面のバンドオフセットの発生起源と化学的傾向:
 2つの半導体が作る界面を特徴づける最も基本的な物理量は、バンドオフセット(伝導帯下端または価電子帯上端の、2つの物質間でのエネルギー差)と言います。左図のように結晶形(原子配列の秩序)が変化する物質の界面でオフセットは発生するのでしょうか?最も代表的なhexagonal(WZ)/cubic(ZB)異結晶形界面を対象に、その発生起源を解明しました。右図はその代表結果。半導体のイオン性に依存してオフセットが変化していくことを見出し、その起源を明らかにしました。これら結果は、様々なテキストブックに引用されています。(Phys.Rev.B 1994)



歪むと電子が界面を横切る...
歪み界面、異族界面のバンドオフセットのメカニズム: 物質が歪むとバンドオフセットは大きく変化します(左図)。また、ZnSe/GaAsのように族の異なる物質の界面では、アクセプターボンドとドナーボンドが共存し、オフセットを1eVの大きさで変化します。その起源はいずれも、界面での電子移動にあることを界面の一般化理論をつくって証明し(右図)、多くの半導体界面でのオフセットの実験結果を解明しました(中図)。(J.Phys.Soc.Jpn, 1994)



何故,表面で水は分解するのか...
半導体表面での原子の吸着・拡散・脱離のメカニズム: Si表面にClが吸着すると、SiCl, SiCl2, SiCl3等の様々な分子が作られます。しかし、表面から脱離してくる分子は、この中のSiCl2だけです。表面での原子の拡散と衝突にその原因があることを解明しました。また、光触媒機能を示すTiO2表面に水分子が吸着すると、水分子は分解して移動します。その機動力は、分子と表面の間での電子の移動にあることを明らかにしました。(JJAP 2002, J.Chem.Phys. 2007)



ベクトル場の電磁場とスピノルの電子のバンドは何が違うのか...
フォトニックバンドの磁気異方性:
 電磁場が磁気異方性の方向に進むとそのエネルギー(周波数)は上下に分裂しますが(Faraday効果、中図)、異方性に垂直に進むとエネルギーは増えるだけです(Voigt効果)。しかし、異方性を持つ物質が周期的に並ぶと、異方性に垂直に進む電磁場でもエネルギーが上下に分裂するようになります(右図)。これは、周期性が散乱を誘発し、横に進む波にも縦の散乱が起こるためで、電磁場がベクトル場でボゾンであることがその本質にあることを明らかにしました。(J.Phys,Soc.Jpn 1997)



世界初の非線形応答関数の第一原理計算...
非線形光学応答スペクトル(2光子吸収スペクトル)の第一原理計算法の開発とその応用:
 2つの光子を同時に吸収する非線形な現象を2光子吸収と言います。当時、その実験結果を説明できる理論は存在しませんでした。我々は第一原理計算によりスペクトルを計算する手法を初めて開発しました。これにより、実験結果の解釈や妥当性が議論できるようになりました(左図はSiの2光子吸収スペクトル、中図はZnSの2光子吸収スペクトル)。これは、世界で初めての非線形応答関数の計算です。また、バンドギャップ近くで大きく変化する異方性(テンソル成分比のエネルギー依存性)は大きく変化すること、その変化には普遍的な形態があることを予言しました。この理論予言は、それ以後の実験により証明されました(右図、optics Comm 2000)。(Phys.Rev.B, 1997,1998)



余分な電荷はどう分布するのか...
荷電を帯びた表面の第一原理電子構造計算法の開発:
 電荷を帯びた系は中性でないために、その第一原理計算は難しい課題でした。我々は電荷を帯びた表面の計算方法を初めて開発しました。この方法により、電荷を帯びた金属では電荷は表面に分布する(左図)こと、電荷を帯びた半導体でも電荷は表面に分布するが、その厚さはほぼ3原子層厚であること等、電荷の分布のミクロな描像が初めて明らかになりました。(J.Phys.Soc.Jpn 2007)








<以下は、約10年前に作った研究内容の説明(参考までに)>



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